裴松之先生の罵詈雑言劇場 - 迂闊,亦已甚――巻二十四 高柔

孫盛曰:聞五帝無誥誓之文,三王無盟祝之事,然則盟誓之文,始自三季,質任之作,起於周微。夫貞夫之一,則天地可動,機心内萌,則鷗鳥不下。況信不足焉而祈物之必附,猜生於我而望彼之必懐,何異挾冰求溫,抱炭希涼者哉?且夫要功之倫,陵肆之類,莫不背情任計,昧利忘親,縦懐慈孝之愛,或慮傾身之禍。是以周、鄭交悪,漢高請羹,隗嚻捐子,馬超背父,其為酷忍如此之極也,安在其因質委誠,取任永固哉?世主若能遠覽先王閑邪之至道,近鑒狡肆徇利之凶心,勝之以解網之仁,致之以来蘇之恵,燿之以雷霆之威,潤之以時雨之施,則不恭可歛衽於一朝,炰哮可屈膝於象魏矣。何必拘厥親以来其情,逼所愛以制其命乎?苟不能然,而仗夫計術,籠之以権数,檢之以一切,雖覽一室而庶徴於四海,法生鄙局,冀或半之暫益,自不得不有不忍之刑,以遂孥戮之罰,亦猶瀆盟由乎一人,而云俾墜其師,無克遺育之言耳。豈得復引四罪不及之典,司馬牛獲宥之義乎?仮令任者皆不保其父兄,輒有二三之言,曲哀其意而悉活之,則長人子危親自存之悖。子弟雖質,必無刑戮之憂,父兄雖逆,終無勦絶之慮。柔不究明此術非盛王之道,宜開張遠義,蠲此近制,而陳法内之刑以申一人之命,可謂心存小善,非王者之体。古者殺人之中,又有仁焉。刑之於獄,未為失也。

臣松之以為

辨章事理,貴得当時之宜,無為虚唱大言而終帰無用。浮誕之論,不切於実,猶若畫魑魅之象,而躓於犬馬之形也。質任之興,非防近世,況三方鼎峙,遼東偏遠,羈其親属以防未然,不為非矣。柔謂晃有先言之善,宜蒙原心之宥。而盛責柔不能開張遠理,蠲此近制。不達此言竟為何謂?若云猜防為非,質任宜廃,是謂応大明先王之道,不預任者生死也。晃之為任,歴年已久,豈得於殺活之際,方論至理之本。是何異叢棘既繁,事須判決,空論刑措之美,無聞当不之実哉?其為迂闊,亦已甚矣,漢高事窮理迫,権以済親,而総之酷忍之科,既已大有所誣。且自古已来,未有子弟妄告父兄以図全身者,自存之悖,未之或聞。晃以兄告弟,而其事果驗。謂晃応殺,将以遏防。若言之亦死,不言亦死,豈不杜帰善之心,失正刑之中哉?若趙括之母,以先請獲免,鍾会之兄,以密言全子,古今此比,蓋為不少。晃之前言,事同斯例,而独遇否閉,良可哀哉!

(漢籍電子文献資料庫三國志 687頁 ちくま4-086)

解説

 なっが!
 え、えーと、魏明帝の時代、遼西エリア(三國志マップ北東の端)で割拠した公孫淵が叛意をむき出しとしたとき、魏で人質となっていた公孫淵の弟である公孫晃が処刑されることに。とは言え公孫晃は常々兄の叛心について語っていたそうです。ここで高柔は公孫晃の発言を考えれば許す余地はあるにせよ、もし処刑するのであれば公開処刑すべき、と主張しました。「裏切ったものの人質の処刑」とはそういうものだから。けど明帝は最終的に、毒酒による処刑という比較的穏当な処分としました。
 これに対し、まず孫盛さんが噛みつきます。だいたい人間、どんなに肉親の情があろうとも我が身かわいさを優先するもんだろうよ、だから同族のはずの周と鄭はいがみ合ったし、項羽が劉邦の父親を殺そうとしたときには「わしが親父のスープを飲んでみせよう」と言い切ったし、光武帝と争った隗囂は子を見捨て、馬超だって父親を見殺しにしてる。つまり、そもそも人質制度なんてもんはまともに機能しない。っつーかお国がまともに機能してんならそもそも公孫淵だって叛意を抱こうとなんかしないでしょ。高柔がすべきは人質制度なんざ所詮機能しねーって事を明らかにすることだったでしょ、お国の統治の術でなくひとりの人間の処罰方法がどうこうに留まってて、話にならないね! そりゃ明帝だって穏当な処分にするわ! ……とのことですが、うんまあどうでもいい情報が盛り込まれすぎててこれは漫文ですわ。孫盛さん、この書き方はない。そりゃ非難されます。ちなみに直訳するとたぶん三倍に膨れ上がります。付き合ってられるかそんなん。
 というわけで裴松之先生、やっちゃってください。
 政策の決定はその理路を明らかにすることが肝心だろ? べらべら虚言まくし立てて終了とかナシですわ。妖怪の絵を描いておきながら馬や犬描くの苦手とか間抜けっしょ? つうか孫盛、人質制度がつい最近起こったみたいな書き方してるけどそんなことはないし、遠方に割拠する豪族の親族を人質としてとるのは間違ってないとも言えないし。高柔にしたって公孫晃の発言からすれば許す余地がある、けど殺さにゃならんのなら公開処刑以外ない、って話してんのよ? なのに孫盛は人質制度の可否なんて話しはじめてる。いや問題はそこじゃねーよ。お前は受刑者がクソほどあふれてその処理を下さなきゃいけねーって時に「そもそも犯罪を防ぐには……」とか言い出すのかよ。どんだけ迂遠なことすりゃ気がすむんだよ。劉邦の方便だって追い込まれてのものでしかねーのにそれを残虐行為とかアホか。それに古来子や弟が父や兄を貶めたなんてケース、ぜんぜん知らねーぞ? 公孫晃の発言だって陥れる、じゃなくてただ語る、だったろうが。しかもそれは確かに証明されている。じゃあお前、戦国趙で趙括が白起にあっさり殺されるよりも前に母親が「あれに白起の相手は務まりません、どうかお取り下げください」と語ったり、鐘毓が「弟の鐘会を大任に付けるのは危うい、どうかお取り下げください」と必死に食い下がり、その発言ゆえに赦免されたことは過ちだって言うんだな? 公孫晃の発言だって趙括母、鐘毓とまったく同等のものだったろうが。なら何で「処刑されるのが当然」みてーな話してやがんだおい、とのことです。
 いや先生、別に孫盛さんの長文にお付き合いしてくださらなくてもよいのよ?

皆様のコメント

まる。様
裴先生、いっそ粘着か!て笑ってしまいました。